●彼らの背景
今シーズン、開幕前の横浜Fマリノスには少なくない変化大きく2つあった。
一つは3年間、CFGから派遣されてチームの改革を行ってきたエリク・モンバエルツの退任。そして、新たに招聘されたアンジェ・ポステコグルーの就任。チームに新たな戦術を植え付けつつ、若手の発掘に勤しんだ指揮官と別れを告げた。そしてディフェンシブな面をフューチャーされてきたこれまでのチームカラーとは、全く異なるフットボールを標榜する「ボス」との遭遇は吉と出るか凶と出るか。それはこれからの行動と結果のみが示唆してくれることとなる。
もう一つは、長年チームの顔であり、昨年はかのウルトラレフティー中村俊輔から背番号10とキャプテンマークを引き継いだ生え抜きのエース、齋藤学の移籍である。例年オフシーズンになると海外への移籍を志願し、翌年のオファーでスムーズな海外移籍ができるようにと単年契約を結んでいたことが、最終的には仇となり、生まれ育った隣の市へ旅立ってしまった。彼が忠誠を誓ったクラブで活躍するか、海を渡ることを夢見ていたファンや関係者にとって、非常に胸の痛い話となってしまった。また、彼と同時期に浦和へと移籍した「マルちゃん」ことマルティノスの不在により起こるチームの変化は見逃せない。
●始めの形
開幕戦の相手は天皇杯決勝で苦い思いをしたセレッソ大阪である。ACLで暖機運転をこなしてきているようだが、桜が咲き始める前の時期に当たったことは、過密日程の中でどのような影響を与えるだろうか。
横浜のスタートポジションは4-1-2-3でGKに飯倉、DFは右から松原、中澤、デゲネク、山中、アンカーに喜田、インサイドに中町と天野、右に遠藤、左にユン・イルロク、最前線はウーゴ・ヴィエイラである。所謂中盤の逆三角形。今では日本代表でも度々見る形であり、CFGらしい人の並びとなった。本家シティの人の動きについてはたくさん考察されているので、そちらを見ることをお勧めします。
対するセレッソは4-4-2でGKはキム・ジンヒョン、DFは右から松田、ヨニッチ、木本、丸橋、MFは右から水沼、山口、山村、福満、FWは杉本と柿谷である。昨年同様オーソドックスな4-4-2でライン間を圧縮してボールを奪い、想像力豊かな前線で勝負する非常に日本人好みのチームに仕上がってきていると感じる。戦術理解度が高く、ユンジョンファンの魔改造により驚異的なポリバレント性を手に入れた山村が、今日は中盤の一角で先発する。ちなみに海外移籍の噂があった杉本が残留し、Kリーグ得点ランキング2位のヤン・ドンヒョンはベンチ。日本に来てからも不運が続く清武は怪我で欠場。お祓いに行って欲しい。
●マリノスの攻撃におけるデザイン
既に巷で大きな話題となっているが、この試合では日本のフットボールファンにとって、少なくない驚きが提供された。それはほぼマリノスによってもたらされたものであり、何が起こっていたのかを解説していく。
まず、そもそもの構造として、スタートポジションから喜田を見る選手がセレッソにはおらず、ここに配置的優位性が見られる。前半はじめはまずここを使い、ボールを前進することにマリノスは成功していた。
また、プレシーズンから顕著に見られた「GK飯倉が積極的にボールに絡む動き」は非常に有効であり、GK飯倉、CB中澤、デゲネク、アンカー喜田の菱形の前に終始柿谷と杉本は苦労していた。
そして、最も驚きを与えたのがボール前進時における、SBのポジションである。通常、Jリーグでは中央からボールを前進させる場合、片方のSBは横幅を取り、片方はカウンターに備える光景が多く見られる。
ところが、今回見られた動きとしては、SBが中央側斜め前に移動する動きであった。この動きにより、セレッソサイドはさらに「誰が誰を見るのか」という基準点が大きくずれることとなった。
そして、この試合では左SBの山中がこの動きを顕著に行い、松原は遠藤をサポートするという形が多かった。これは恐らくマリノスが右サイドからの攻撃に光明を見出したからというのと、左サイドのユン・イルロクの方がまだ入団して日が浅く、コンビネーションに不安を残していたこともあるかもしれないが、実際は不明。おそらくユン・イルロクはスピードに乗った状態で前向きにボールを貰いたがる選手なので、ここが使えるとこの攻撃はさらに良くなると思われる。
そうして、序盤に捕まえ切れていなかった山中が今シーズン1号を決める運びは非常に理にかなった展開であった。
●マリノスの守備におけるデザイン
また、この配置は攻撃から守備の切り替えの際にも、非常に機能していた。
特にCBの前のスペースを埋めていることで、ボール寄りのサイドが圧縮され、密度の高い守備からボールを奪い返すシーンが散見された。
また、セレッソの選手に対する中間ポジションに人を配置することは守備時のハイプレッシャーにもいい影響を与えていた。ハイラインとハイプレスは同時に行ってなんぼである。
しかし、一方で4-1-4-1で撤退守備を余儀なくされた場合や決して足の速くないCBの裏のゾーンを使われた場合は肝を冷やすシーンが多くなっていた。飯倉のスーパーな守備範囲に助けられた点も多いが、それが悲しみを生むことにもなりそうな予感があり、改善が必要である。
●天野について
この試合、機能不全に陥っているように見えたのはモンバエルツの元で開花した天野純である。彼はボールをもらうために、何度か列を降りる動きをしていたが、それにより前線が軽くなり、後方では中央渋滞が起こっていた。
同じポジションの中町は前線へのつなぎ役、飛び出し、トランジッションの際の蓋、後方のビルドアップの補助と様々な役割をこなしていた点に比べれば、自由が与えられていた分、より戦術理解が必要なように思われる。今後ポステコグルーがどこまで選手の自主性を重んじるかは非常に興味深いものを感じる。
●独り言
試合は後半、一切守りに入らない横浜の裏にある広大なスペースにセレッソ選手たちがなだれ込み、最後は中澤による切ないクリアミスから同点に追いつく展開に。
しかし、ある程度のタイミングで下がって守りに入ることができたにもかかわらず、最後まで攻めの姿勢を崩さなかったことから、チームのスタイル定着に対する本気度を感じさせる終盤となった。
この試合は相手がオーソドックスな4-4-2を敷く、セレッソ大阪だけあって、非常にこのシステムのメリットがわかりやすい試合となった。
また、新しいプレーモデルをチームに落とし込むためには時間が必要であるという定説を思いっきり覆したことはこれからの日本の監督人事に左右するのではないだろうか。
今シーズンのマリノスの船出となる試合で、文字通り新しいチームのお披露目となった。
出会いと別れを繰り返し、チームとして前進できるかどうかはこれからの行動とその結果が示してくれるだろう。
ひとまずこんな感じで、だらだらと続けられればと思います。
ありがとうございます。ではでは。